★★★★★★★★☆☆
今まで未ソフト化だったビリー・ワイルダー作品。昨年はこれ以外に、監督第1作の「少佐と少女」をはじめ「熱砂の秘密」、「異国の出来事」など、今まで観たくても観られなかったワイルダーのアメリカ初期作品がDVD化され、ファンとしては非常にうれしい年となった。
この前作であるところの「サンセット大通り」と同様、ワイルダーが非常にシニカルに世の中を見ているのがよく分かる一編。
第一線に返り咲くため、たまたま出くわした事件の被害者を徹底的に利用する主人公、その煽動に乗せられてお祭り騒ぎをする大衆、集まってくる大衆目当てに金儲けに一心不乱の被害者の妻など、登場するのは自らのエゴのみで動いていると言っても過言ではない人物たちが大半。唯一、主人公が勤める新聞社の編集長のみがモラリストで公明正大な報道を心がけようとしているが、登場は多くない。
そんな事件を利用する、もしくは楽しむことしか頭に無い人たちがいっぱい出てくるので、ラストが腑に落ちない。主人公は冷徹といえるほど自分のことしか考えていない人物であるはずなのに、いよいよ被害者が死ぬ、というときになってそれまでの考えを改めるのはどういうわけなのだろう。
同じように被害者が死んだとしても、つまり間接的に主人公が殺したことになったとしても、それまでの流れからいけば、それを利用してでも出世するという主人公のままでいるのが当然であるし、そうであって欲しかった。その終わり方で具合が悪ければ、それまでのことを快く思っていない誰か(例えば被害者の両親)と一悶着あるようにするとか、逆にそれまでの主人公の在り方がマスコミの槍玉に挙げられて終わるなどで良かったのではないかと思う。
公開当時は酷評されたそうで、興行成績も良くなかったそうだが、最近は世評が高い。その理由は、ウディ・アレンが2番目に好きなワイルダー作品であるとか、今までソフト化されていなかったというせいではないかと思う。特に後者の理由が大きいように感じた。
しかし何はともあれ、観られただけでうれしいのは確か。